台湾数位発展部(デジタル発展部)、「AIリスク分類フレームワーク」を公表
台湾数位発展部(デジタル発展部)、「AIリスク分類フレームワーク」を公表
― AI基本法第16条に基づく政府横断的リスク評価基準の整備 ―
2026年7月7日、台湾の数位発展部(デジタル発展部)は、「人工智慧風險分類框架(AIリスク分類フレームワーク)」を公表した。AI技術の発展を促進する一方で、AI利用に伴う安全性及び信頼性を確保することを目的とするものであり、AI基本法に基づき、各主管機関がリスクベースの管理規範を策定するための共通の評価基準として位置付けられる。
近年、生成AIの急速な発展により、AI技術は行政、金融、医療、教育、製造業など幅広い分野で活用されるようになっている。他方で、個人情報保護、知的財産権侵害、差別的判断、誤情報の拡散、ディープフェイクによる詐欺、サイバー攻撃への悪用など、新たな法的・社会的リスクも指摘されている。
こうした状況を踏まえ、台湾政府は、AI技術の発展を阻害する過度な規制を避けつつ、社会的影響の大きいリスクについては適切な管理を行うため、リスクベースのAIガバナンス制度の構築を進めてきた。今回のフレームワークは、その中核をなすものである。
本フレームワークの直接的な法的根拠は、AI基本法(人工智慧基本法)第16条である。
同条第1項は、数位発展部に対し、国際標準及び国際規範を参考としながら、国際的整合性を有するAIリスク分類フレームワークを策定し、各目的事業主管機関がリスクベースの管理規範を制定できるよう支援する責務を課している。
また、第16条第2項は、各主管機関が、自らの所管分野におけるAI利用に応じて、産業界によるガイドラインや自主的行動規範の策定を支援することを求めている。この意味において、第16条は台湾AIガバナンス制度における「橋渡し規定」と評価することができる。
本フレームワークは、それ自体が企業や国民に直接的な法的義務を課す規制ではない。あくまで、各主管機関が分野別の管理規範を策定するための共通基盤(行政内部の評価基準)として機能する。
数位発展部が担うのはリスク評価の共通枠組みを提供する役割にとどまり、具体的な規制内容の策定及び執行責任は、金融、医療、教育、通信など各分野の目的事業主管機関に委ねられる。すなわち、中央政府がAI利用を一元的に管理する方式ではなく、分野別行政機関による分散型のAIガバナンスが採用されている。
- 01 共通評価基準の提供 各主管機関が、所管する産業分野におけるAI利用の潜在的リスクを把握し、既存法制で対応可能か、新たな管理規範が必要かを判断するための基準を提供する。
- 02 省庁横断的な連携の実現 生成AIは教育、著作権、個人情報保護、情報セキュリティなど複数領域に関係することから、各主管機関が独自基準で対応するのではなく、政府全体で共通するリスク評価方法を用いることを可能にする。
- 03 権限と責任の分担 AIガバナンスの最終的な執行責任は各目的事業主管機関が負う。数位発展部は共通フレームワークの提供に徹し、具体的な規制内容は各分野の専門機関が策定する。
本フレームワークは、各主管機関がAIリスク管理を実施するための四段階の評価プロセスを示している。
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AI活用場面の把握 各主管機関が、所管する産業分野において現在利用され、又は将来導入され得るAIの利用場面を整理する。AI技術そのものではなく、「どのような場面でAIが利用されるか」という利用状況を出発点とする。
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リスクの識別 個人情報保護上の問題、著作権侵害、差別的判断、誤情報生成、セキュリティリスクなど、AI利用によって発生し得るリスクを特定する。
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リスク評価 識別されたリスクについて、影響の程度や重大性を評価する。利用目的、対象者、社会的影響によって、必要な管理水準は異なる。
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リスクへの対応 評価結果に基づき、法的規制、技術的安全措置、人間による監督、ガイドライン策定、監査制度など、適切な管理措置を講じる。
この四段階のプロセスから明らかなように、本フレームワークは、AIシステムそのものを事前に「高リスクAI」「低リスクAI」と分類する制度ではない。むしろ、AIの利用場面ごとに発生するリスクを評価し、その結果に応じて必要な管理措置を決定する制度であり、この点でEU AI Actとは制度思想を異にする。
EU AI Act型アプローチ
- AIシステム
- リスクカテゴリー分類
- カテゴリーごとの法的義務
台湾型アプローチ
- AI利用場面
- リスク識別
- 影響評価
- 管理措置決定
台湾の制度は、AI技術の急速な変化に対応しやすい一方、具体的な規制内容は各主管機関に委ねられるため、今後どのような分野別規範が形成されるかが重要な観察点となる。
数位発展部による本フレームワークは、AI基本法第16条が掲げるリスクベース・アプローチを、政府全体で共有可能な評価基準として初めて具体化した事例として位置付けられる。AI技術の発展を阻害しない柔軟性を維持しながら、各主管機関が分野特性に応じた管理規範を策定するための土台を提供する点に、台湾型AIガバナンスの特徴が表れている。
AI技術そのものに内在するリスクを対象とする。アルゴリズム、学習データ、システム設計など、AI開発段階において発生する可能性がある技術的リスクである。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| A1 セキュリティ脆弱性・攻撃 | 不正アクセス、データ窃取、システム操作など、AIシステムの安全性を損なうリスク。 |
| A2 透明性・説明可能性不足 | AIによる判断過程が不明確となり、利用者による理解、責任追及、誤りの修正が困難となるリスク。 |
| A3 人間の意図・社会価値からの逸脱 | AIの行動が設計者の目的や社会的価値から外れ、予期しない結果を生じる危険。 |
| A4 危険能力の獲得 | AIが欺瞞、操作、自律的能力拡大など、重大な危害につながる能力を有する可能性。 |
| A5 個人情報・プライバシー問題 | 学習データや利用過程において個人情報保護法令に違反する可能性。 |
| A6 知的財産権侵害 | 学習データや生成物によって著作権その他の知的財産権を侵害するリスク。 |
| A7 差別・偏見 | 学習データの偏りやアルゴリズム設計により、不公平又は差別的な判断が生じるリスク。 |
| A8 誤情報・誤解を招く情報 | LLM(大規模言語モデル)によるハルシネーションなど、事実と異なる情報生成のリスク。 |
AIシステムが社会に導入された後、利用者との関係や運用過程において発生するリスクを対象とする。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| B1 過度依存・不安全利用 | 利用者がAI判断を過度に信用し、十分な確認なしに利用することによるリスク。 |
| B2 人間の自主性喪失 | 重要な意思決定をAIへ委ねることにより、人間の主体的判断能力が低下するリスク。 |
| B3 違法コンテンツ生成 | 犯罪情報、違法コンテンツ、規制対象となる情報が生成されるリスク。 |
| B4 詐欺・ディープフェイク | AI生成画像、音声、動画によるなりすまし、詐欺、世論操作などのリスク。 |
| B5 サイバー攻撃利用 | AIによる攻撃手法の自動化や、サイバー攻撃への悪用リスク。 |
| B6 AIエージェント権限逸脱 | 自律型AIエージェントが設定された目的や権限範囲を超えて行動するリスク。 |
AI技術が社会全体、経済構造、環境、民主主義などへ及ぼす長期的・構造的影響を対象とする。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| C1 競争秩序の不均衡 | AI開発競争の激化により、安全性が十分でないAIが普及するリスク。 |
| C2 権力集中・利益分配問題 | 高度AI技術や計算資源が一部企業・国家へ集中し、格差を拡大するリスク。 |
| C3 格差拡大・雇用問題 | AIによる自動化によって、雇用構造や社会的不均衡へ影響を与えるリスク。 |
| C4 創作価値への影響 | 生成AIによる模倣・大量生成が、人間の創作産業や文化的価値へ影響するリスク。 |
| C5 環境負荷 | AIモデルの学習・運用に伴う大量電力消費やCO₂排出などの環境リスク。 |
| C6 認知戦・情報主権 | 生成AIやディープフェイクによる情報操作が、民主主義や社会的信頼へ影響するリスク。 |
- 01 数位発展部(moda)、AI 風險分類框架|治理與評測 – AI 專區 https://moda.gov.tw/major-policies/ai/governance/19244
- 02 iThome、【資安日報】7月9日,数発部公布人工智慧風險分類框架 https://www.ithome.com.tw/news/177214
- 03 中央社(CNA)、数発部AI風險分類框架 労働部・金管会等4部会擬先檢視 https://www.cna.com.tw/news/afe/202603080116.aspx
本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的助言を構成しません。個別案件については専門家にご相談ください。

